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見舞い 病室に続く廊下を幾度注意されても、ほとんど駆け足に近くなる。その足音を待ち受けていたかのようにドアを開け、病室の入口に立って迎えていた母が椅子に掛けるようになり、やがてベッドに寄りかかって、ついに今日は横たわったままだった。 「上着を掛けていらっしゃい」 |
チャンス 世界で最も美しい国、ホントワール共和国。秋を迎えるこの頃の夜は急に冷え込むことがある。季節が移り行く中で、国民の変わらぬ支持を得ている大統領は対立候補も無く、当然のように再選されて来週に控えた華やかな就任式を全国民と多くの観光客が心待ちにしていた。表面だけ見ていれば世界で最も美しく平和で穏やかな国に見える。だが、必ずどこかでギャラクターと結びついているはずだ。7年前、南海での飛行機事故にこと寄せて名を消し姿を変えて潜入に成功したものの、証拠を掴むどころか昼なお暗い闇でもがくような月日を重ねている。(また検討違いかも知れん)内心、自嘲気味に呟いて寒さに身震いした。切り裂くような冷たい風が彼を包み、ビルの谷間を吹き抜けていく。 人の声と温かい空気でようやく自分を取戻す。傍らにいるのは油断のならないものを漂わせている傭兵上がりらしいパイロットだが、今夜だけは相手があるのがうれしかった。 |
「大丈夫なのか?」 「うむ。動かなければ何も掴めん。もう7年になる」 単独行動を重ねていた今までと異なり、偶然に接触を持った移民のパイロットが掴んだ情報に賭けてみたいと言う鷲尾を危惧したが、力の無い言葉の隅に自嘲が滲み焦りに追い詰められているのも感じる。 「わかった。くれぐれも慎重にやってくれ」 南部としてもこれを突破口にし、なんらかの決着をつけたい。戻してやりたい。ほっとした気配が通信装置から伝わってくるのを励ますように話題を変えた。 身元を隠す為に、滞在の長くなったユートランドからまた移動の必要があり――、黙って説明に聞き入っているが、妻と子の消息に縋る心が伝わってくる。 「先週、出発したところだ」 と、言葉を切ると間髪をいれず、 「それで?」 と、先を促す。 落ち着き先での詳しい情報がまだ手元にないので、仕方なくその旨を告げると 「そうか…」 いつになく寂しさを隠せない声音が通信を終了しても耳に残った。ホントワール共和国での活動の浮沈と、旅を重ねる夫人の容態が連動する不思議に南部博士はふと胸騒ぎを覚えた。 |
塩と水 「ジュゼッペ・アサクラの家族、縁の者はほんとうに残っていないのだろうな?」 BC島市長の媚びるような話し方がカッツェの神経を苛立たせ、まだ報告が続いている電話を切り上げた。幼い頃から身体の異変を蔑まれ笑い者にされてきたカッツェは、ギャラクターの首領になった今も自分には人望も人脈もないことをよく知っている。BC島もホントワール共和国も末端の戦闘員に至るまで、腹の中では自分を笑っているような気がしてならない。(だが、私は選ばれた人間。地球を支配する人間なのだ)言い聞かせながらカッツェは自分自身を励ました。 |
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