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ホントワール共和国 欧州の北方に位置するこの国は雄大で美しい自然に富み、観光立国として広くその名を知られつつあった。豊かな自然と穏かな国民性にひかれて毎年、世界中から多くの人々がこの国を訪れる。犯罪の検挙率が極めて高く、観光客がいかに増加しようともトップクラスの治安の良さを誇っている。 国際科学技術庁の保護下にあるとはいえ、あまり丈夫ではない妻が幼い子を抱えて、次の目的地であるユートランドに子供と共に無事到着したものの、空港で倒れて入院したという話を聞いたときは、さすがに心が波立った。それを意志の力で押し鎮め未確認の情報に振り回されながらも、二人の僅かな消息に縋るような日々が流れた。 |
国家保安局 ホントワール共和国・国家保安局の局長室で、保安局長がでっぷりと貫禄のついた身体を椅子に沈みこませ、入室してきた部下の警備隊長を執務机越しに見やった。 長い廊下を自室へと戻りながら局長執務室から離れれば離れるほど、緊張から開放された警備隊長はようやく気持ちが落ち着いてきた。警備隊が国家安全部に昇格すれば規模と権限が増大し、以前からの計画通り新国防長官直属の秘密警察を立ち上げることが出来る。腹心の部下たちの顔が浮かんで来て思わずほくそ笑んだ。上着の内ポケットに入れた紙がかすかな音を立て足が止まる。自室で書類に目を通しているときに保安局長から呼び出され、うろたえて書類を一枚手にしたまま廊下に飛び出してしまい、局長執務室に向かう途中で気がついて内ポケットに押し込んだのだ。内容を思い出して血の気が引き、恐る恐る振り向いたが執務室の扉は閉ざされたままで、長い廊下には自分以外の人の気配もない。警備隊長は大きく息を吐くと制服の胸を張り、大またに進んで自室に通じる方角へ廊下を折れた。未完成段階のものではあるが、監視システムの配置図と一覧表をコピーしたヤツがいる。流れに逆らう何者かの存在にぞっとしたが、その監視システムを充実させたおかげでコピーをとる現場をカメラに収めることに成功した。時間さえかければ画像解析は可能である、との報告も情報部から受けている。解析結果が出てから動いても遅くはあるまい。秘密警察隊長になるのが先だ。うなずいたのが自室の前だった。 |
南部博士 部下やスタッフの全てを遠ざけた別荘の屋根裏部屋の通信装置の前で、南部博士はようやく安堵の表情になった。この6年近く、僅かな手掛かりを掴んでは失望する…の繰り返しで、ホントワール共和国に潜入する任務を引き受け歯を食いしばって孤独に耐え抜き、ほとんど収穫のない徒労に終るばかりの苦しい時間を送っている相手をやっと喜ばせる連絡ができたのだ。 |
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